「初期治療を乗り越えて〜知っておきたいこと」

小児脳腫瘍の会 第14回講演会 (2006年12月02日開催)

財団法人がんの子供を守る会 ソーシャルワーカー 樋口明子

はじめに

財団法人がんの子供を守る会の樋口と申します。今日いただいた時間も長めにいただいていましたが、講演というほど私は偉そうなことは何もできないので、この後の交流会の話題提供にでもなればとお話をさせていただきたいと思います。

小児脳腫瘍の会に昨年呼んでいただき、お話をさせていただいたので、新しいお話を、と悩んでいたのですが、脳腫瘍のお子さんに限って言うと、やはり治療後の問題というのがやっぱりかなり大きな問題になってくることもあるかと思います。そこで今日は、私どもが普段受けているご相談の中から少しピックアップしたものをお話させていただき、その後、本日お配りしたガイドラインの内容をご紹介させていただいて終わりたいと思っています。

がんの子供を守る会について

多くの方に知っていただいていると思いますが、「財団法人がんの子供を守る会」は今から38年前に小児がんでお子さんを亡くされた親御さんによって設立された親の会です。親の会の中で、専門職者としてソーシャルワーカーが雇用され現在に至っています。財団ですので、使命としては親御さん、家族のご相談以外にも、医療関係者の支援ですとか一般の方への啓発活動など広く難病のお子さんを持つ御家族への支援もさせていただいています。小児がんのお子さんの御家族には、それぞれの時間軸があると思いますが、どの場面でもご相談ができるようにと、私達も体制を整えているつもりでおります。

小児脳腫瘍に限ったものではなく、小児がん全ての件数ではありますが、昨年度は約12,000件のご相談をいただいております。小児脳腫瘍の会のHPでやりとりをなされているように、最近はインターネットが普及しているのでEメールでのご相談も多いようにも見えますが、私どものモットーというか考えでとても大切にしているのは、直接御家族と話をさせていただき、声を必ず聞かせていただくことで、一回は必ずお電話で話をさせていただくようにお願いをしています。

発症率からすると全ての小児がんの中の一割ぐらいが脳腫瘍と言われていますが、ご相談内訳も同様で全体の1割程度が脳腫瘍の患者御家族のご相談です。小児脳腫瘍の会の方も紹介して下さっている影響もあるかと思いますが、少しだけ脳腫瘍の方のご相談が増えてきているかなという感触はあります。

寄せられる相談について

ご相談の内容としては、様々なご相談が寄せられています。特に、脳腫瘍の方については退院後の生活のご相談も多く寄せられます。それは、抗腫瘍治療―いわゆる脳腫瘍に対しての治療が終わって退院して終りかいうと、脳腫瘍の治療の場合は、治療する前と全く容貌が異なってしまうこと、体力がなくなったり、機能も温存できる機能と変わってしまう機能があるということが特徴としてあげられ、入院する前と全く同じ生活ができると思って退院しても、現実にはとても難しいということにが退院した後に直面してしまう、大きな障害を残す方もいらっしゃいますけれども、見た目ではわかりにくい、理解されにくい、生活のしづらさ、障害というよりかは生活のしづらさというものが残ることが多くて、不定愁訴がとっても多いと思います。この時期季節の変わり目ですとか、寒くなる時期ですとかは頭痛が続いたりとか、なんだかわからないけれども疲れやすい。ということが頻繁にあるというのも脳腫瘍の方の特徴かもしれません。

そういった問題を抱えながらも一番困ってしまうことというのは、脳腫瘍のお子さんをみたことのある先生は「そういうことあるよね」というようにお話聞いてくださることもあると思うのですが、全然知らない先生だとかご近所の開業医だとかに行ったときは理解されがたくて十分な診断もつかずに「多分心理的なものなんじゃないんですか?」とか「お母さんが甘やかしすぎているんじゃないんですか?」とか「わがままに育てているからじゃないですか?」とかお母さんが責められちゃったりとか、お子さん本人が多分サボりたいからだよという風に言われてしまって病気のことを理解してもらえないということも多くあるようです。

ご相談の内訳で、医療相談、生活相談の割合は、脳腫瘍の方は退院後も医療にかかることが多いので医療相談が多いというのが現状です。でも私達ができる相談というのは、医師ではないので生活の中で関わる医療的なものということになります。生活相談をソーシャルワーカーとしては受けさせていただいているので、医療的な治療の内容だとか医療者との関係の方が肝心となっているものも多いのですが、心理的な支えとか情報提供が多く挙げられているのも特徴的ですし、小児脳腫瘍の会を紹介させていただいていることもあるので、親の会の相談というのもかなり多くなってきています。

小児がん経験者の自立についてこれからお話させていただきたいと思いますが、お子さん自身が成長していく中で、お子さん自身の今後の生活、自分自身の将来についてのご相談というのも増えてきています。

(講演では、ひとりのお嬢さんのお話をさせていただきましたが、ここでは省略させて頂きます。)

親御さんからのご相談は、身体的なご相談や、どこの学校にいったらいいのだろう、進学はどうしたらいいんだろうだとか普通教育でいいんだろうかというご相談も多いんですけれども、だんだんと当事者、脳腫瘍を経験された方のご相談も増えてきています。自分の治療の選択も治療中から直接お子さんとお話をする機会も増えています。だんだんと思春期を迎えて、親からの自立の段階になれば親との関係のことだとか、友達との関係とか、晩期障害、日常の管理、長期フォローアップのこと、恋愛、結婚などの話題が主なものです。私達の会はもともと親の会でしたので、子どもに影響を与えるのは親御さんなので親御さんの支援をしていこうということで活動をしてまいりましたが、時代も変わり、実際に治療を受けられたご本人からのご相談にも応じるようになり、少しずつ活動の幅を広げてきています。先ほどの方もボランティアで事務所に来ていただくようになったという経過を話しましたが、ボランティアとして事務所に来る方もだんだん増えてきています。多い方は毎日、少ない方は週に一回という形で定期的に小児がん経験者を受け入れるようになっています。それぞれの目標や生活ペースなどにあわせて頻度と時間は設定しています。これは成人された方に限らず、中学生高校生の方も中にはいました。まずは安心して心地よくすごせる空間の提供、当然のことですが、親御さんなど理解してくれる人から少し離れて、まあ理解はしてくれるんだけれどもあまり知らない人というような中で、社会の窓口としての場所を作ったうえで、ソーシャルスキルの習得や就職活動、先ほど申し上げた一人暮らしの生活の仕方など今後の生活を一緒に考えることもあります。毎回、日誌もつけてもらっています。その一日の記録を振り返り、年度ごとに評価表も書いてもらっています。

ガイドラインのこと

今日、「小児がん経験者のケアのためのガイドラインーよりよい生活をめざして」を配布させて頂きました。内容を少しご紹介させていただきます。今までのガイドラインのシリーズは全ての方を対象にしていましたが、今回は小児がん経験者に焦点がしぼられています。加えて家族、医療関係者、教育関係者、将来小児医療にたずさわるという目的を持つ医療学生にも読んでもらえたらという記述の仕方をしています。今迷いながら色んな表現をしてきました、小児がん経験者は長期生存者というふうにも呼ばれていましたし、色んな呼ばれ方をしていますが、ご本人達にきいたら、「小児がん経験者」と今は呼んで欲しいという人が多かったので、暫定的に今は治療を終えた小児がんを経験した子ども達を「小児がん経験者」と、このガイドラインでは呼んでいます。

こどもの権利

1章では「こどもの権利」について書いてあります。これは、自分自身が持っている権利を認識すると共に、そこに生じる責任、歴史を踏まえた上で、こどもたちにもわかっていって欲しいと、触れてあります。これまでは子どもっていうのは弱いし何もわからないからうそをついても信じさせていかなくちゃいけないという治療をしてきたのが、子どもっていうのは言われていなくても気づいていて、大人のことをとてもよく見ているから、うそをつかれるという行為自体が自分自身の存在否定につながってしまう、それは子どもの成長発達にはよくないことだという弊害が一番注目されるようになって来ました。それで子どもも例外なくその年齢や理解度に応じた説明や選択を決定する権利があるだろうという理念の下に治療行為が今は行われてきています。

子どもが成長するにつれて、子ども本人に自分の体に起こったことを知ってもらい主体的に治療に参画することが重要でしょう。以前にも私は少しお話させていただきましたけれども、とはいっても0歳児1歳児のお子さんが脳腫瘍にかかられることもありますし、そういう時にじゃあどうやって話したらいいのということになると思います。その時は親が医療者と相談しながら治療だとか、医療を考えて決めていくでしょうけれども、お子さんが成長するにつれて、だんだんとお子さんも交えてお子さんにも意見を聞いて、親と先生と話し合ってこういう風にきめてやっていこうと思うんだけれどもいいかな?というせめて選択をさせてあげるというようなところからスタートするのがこの年齢や理解度に応じた方法でというところにつながっていくと思います。

診断時ならびに治療中と治療終了後

2章では「診断時ならびに治療中」3章では「治療終了後」について書かれています。治療が終わった後ということでのガイドラインですが、やはり大切なのは診断時、治療中も含めての継続性も大切です。治療終了時には、これまでの治療経験、今後の計画、あなたはこういう治療をしたからもしかするとこういうことが起こりうるかもしれない、でもそれは心配しすぎなくてもいいことで、だからこそ、必ず定期的に先生に顔を見せに来てねという説明は大切です。何故通院しなくてはいけないのか、何故経過観察しなければいけないのかというような説明もしていかなくちゃいけない。将来お子さんが大きくなったときに自分自身で健康管理をしていく上では、自分の身体に起こったことは知っていなければならないでしょう。それは治療の内容も当然含まれてきますので、その要約を医療者は提供しなくてはいけない、これは医療者側の立場で書かれています。要約を提供することの重要さを敢えてこのガイドラインでメッセージにすることで多くの先生方に認識していただければとも思っています。

生涯を通して

4章は「生涯を通して」です。体の健康管理と心の健康管理の重要性についてまずは書かれています。今まで保護者が「あれしちゃいけない、これしちゃいけない、これは気をつけなくてはいけない」と注意してくれていたものを今度は自分で健康管理をしていかなければならない。心の健康管理についても、心の問題、つまづきというのは病気をしてもしなくても当然起こりうることなのだから、一人で抱え込まずに周りの人に相談していこうねということをメッセージとして伝えています。

晩期障害

晩期障害については、後でまた触れさせていただきますが、晩期障害という言葉自体の議論もあります。小児がん経験者ということばと共に晩期障害ということばをどう使っていこうかという議論です。成長のこともそうですし、内分泌障害のこともそうですし、甲状腺機能障害も5年10年経って起こってくることが多いです。脳腫瘍などですと、血管腫、もやもや病など10年20年経ってから起こる方もいらっしゃいますし、脳血管障害なども年が経てから起こってくるものですので、そういったものも心配していかなくてはならない。ただそれを心配しすぎてしまうのはとても辛いことなので、心配しすぎることを強制しようとしている訳ではなくて、正しい知識を持って定期的にフォローアップを受けて、早期に発見することが、十分な対処につながるので正しい知識を自分でも持って行きましょうと促すために書いています。

最初に申し上げるのを忘れてしまいましたが、このガイドラインの対象は、成人してからだと思われる方が多いかもしれませんが、読む対象は中学生でも読めるようにというように文章に気をつけて書かれています。

セルフヘルプグループ

また「セルフヘルプ・グループ」についても触れています。この小児脳腫瘍の会もそうですが、親御さん同士が情報交換が必要と感じているのを同じように、お子さん自身も自分と同じ仲間と出会うことが必要だと考えている、一緒に話し合うことができる場があるというのはとても大切です。自分のことを語ることができる場でもありますし、自分がひとりじゃないと実感できる場でもあります。生活のしづらさや、何かの課題にぶち当たったときに、既に乗り越えた先輩にも出会えるというとてもいい効果があると思います。ただ、こういうセルフヘルプグループに参加するということは、ここにいらっしゃる方もご経験があると思うのですが、最初の一歩というのはすごく勇気のいることでなかなか踏み出せないものなのでそれぞれが強制することではないことですから、それぞれがそういう会があるなら参加してみたいなと思う時がその時なので、うまく参加できるように支援していかなくてはならないとも書かれています。

長期フォローアップ外来

ここでは「長期フォローアップ外来」の理想型が書かれています。多くのスタッフが揃っていて、特に内分泌、産婦人科、整形外科、循環器科、精神科というような医師の連携が取れている病院であり、長期フォローアップを担当する医師が全てを診るのではなく、成人診療科へうまく移行できるように促してもらえるような外来が長期フォローアップ外来であると考えています。親御さんにしても小児がん経験者自身にしても、自分の体の不調だけではなく、これまでの治療の経過や内容を正確に成人診療科に伝えることも難しく、また、その体の不調が原疾患に関わるものなのかの判断も難しいと思います。その橋渡し役としてもこの長期フォローアップ外来に期待を寄せているところです。また同時にお子さん達が自立して、就職や進学で、今住んでいる地域から離れてしまっていくこともあると思います。そういう時には開業医の先生がこの役割を担っていただけるのではないかとも思っています。それもあって、先ほどのセルフヘルプグループに加えて長期フォローアップ医と開業医のリストを別冊資料として作成いたしました。

社会的自立

自立という言葉を申し上げてきましたが、4章の最後では「社会的自立」について述べてあります。自立とはどういうことなのか、ということをお子さん自身に知ってもらうために大人になる準備という七つの項目を挙げさせていただいています。実はこれは病気をしたお子さんに限らず全てのお子さんにも読んで欲しいなというような内容になっています。「大人になるってどういうことか」ということ共に「自己存在感の確立」と書きましたが、自分が存在している意味とか意義というのを見出してもらえたらとの思いがこめられています。これからの取り組みの課題も含めて、障害が残った小児がん経験者が就労できるような、障害手帳を持っていなくても就労が可能な場所や、社会参加がうまくできない場合の居場所づくりを日本全国のどこでもできるような社会にしていくための支援というものも、今後皆さんの力をお借りして考えて行きたいと思っています。

家族の関係

そして自立にとてもかかわることで、5章の「家族の関係」があります。子ども自身が自分は守られていて世話を焼かれるのが当然だという存在ではなく、自分を一生懸命考えてくれてこれまで悩んでくれた存在である親という存在を、小児がん経験者自身も認識してもらわなくてはいけないということで項目を挙げました。その親の苦労を考えて「親の期待を尊重する気持ち」と「自分の考えを持つ」ということは天秤にかけるものではなく両方一緒に話し合って決めていけるような親との関係性を作り上げていかなくてはいけないだろうし、きょうだいとの関係も必ず病気をした本人自身も知っていなくてはならないと書いてあります。

周囲との関わり

同時に6章にあるように「周囲との関わり」もあり成長していくにつれて、様々な人と接するようになるにつれて、周りの人に自分の病気を説明しなくてはならない場面に遭遇することもあります。脳腫瘍のお子さんですと頭部に照射をすることが多いですから、髪の毛が生えてこないお子さんも何人かいらっしゃるかもしれません。明らかに見た目が他のお子さんと違うということがあると電車の中でじろじろ見られたることを経験している方もいます。そういう目にさらされた時に、どういう風に対処するか。本当は聞かれたくないのにあれやこれやと関係のない人に聞かれてしまったという時に、必ずしも本当のことを相手に伝えなくてはいけないかというと、それはその時の自分次第なんだということも書かれています。どのように対処したらいいのか自分で悩んだときには、自分だけで考えるのは大変なので、周りの人にも相談しましょうねと書きましたが、正しく自分の病気の説明ができるというのは自分が生活してくのには、理解ある環境を整えるのにとても役立つので自分で整える用意も自分で説明できるようにもしていかなくてはいけないし、こうやって発言することで、次の自分と同じ経験をした人たちが生きていく世の中にもつながると同時に社会だけじゃなくて、私達医療関係者、教育関係者への啓発というのもしてもらえると助かるなということも書いています。

ご家族へのメッセージ

最後には、小児がん経験者を対象にと言いつつも、ご家族の方へのメッセージも入れさせていただいています。というのはこのガイドラインを真っ先に手に入れられる親御さんの手から実際にお子さんに渡ったり、実際、医師にもかなり多く配布させていただきましたので、医師の手からお子さん達に渡るようにするためにもと言う意味で御家族方へのメッセージも書いています。親御さんも大変だったし悩んで苦しんできていて、親御さん自身もじゃあ正しい情報を持っているかというと、時にもっていないこともあるので親御さんも改めて、ひと段落ついた時だからこそ今までの治療の内容や経過とを振り返って持っておくということができれば、お子さんが悩んだり苦しんだり立ち止まったときに一緒に考えていくのにとても意味あるものになるんじゃないか。そしてきょうだいも自立する子であって病気の子どものきょうだいという前に、一人の人として自分の人生を考えて欲しい。特に障害を持ち合わせてしまったお子さんのきょうだいというのは、その子の生活のしづらさを担わなくちゃいけないと言う風にごきょうだいが思っている場合も多くあります。知らない間に親御さんがそういう期待をしている場合もあるかもしれない。そういうことではなくて、まずは自分のしたいことやりたいことを探して、家族のことを考えて欲しいというメッセージが伝わればと思っています。

長期フォローアップの相談先

資料に先ほど申し上げた長期フォローアップリストと相談のできる開業医のリストと小児がん経験者のリストを掲載しました。これは小児がん学会の会員の医師にアンケートとしてこういう長期フォローアップ外来をやっている医師のリストを掲載したいのでご協力願いえますかというアンケートをお送りさせていただいて、今行っていると回答されまた掲載してもいいですよ、と言ってくださった施設が載っています。小児科がメインであるといいながらも、おそらく脳腫瘍の方は脳神経外科の先生がメインに治療されているところが多いと思います。化学療法も最近は小児科の先生にかかられていると方も増えてきていますけれども、脳神経外科の中だけで化学療法されている方もいらっしゃるかと思いますので、フォローアップも実は脳神経外科の先生から内分泌の先生を紹介されて内分泌の先生が傍らにいながら脳神経外科の先生がメインですという方もいらっしゃると思いますので、長期フォローアップリストには脳神経外科の先生も入れさせていただいています。開業医のリストも学会の会員の開業医の先生にお願いをして掲載をしています。晩期障害のケアだとか投薬をしてくださいとお願いしているわけではなく、大きくなった時に、ちょっと風邪っぽいんだけれどもこれは風邪なんだろうか、二次がんなんだろうか晩期障害なんだろうか、どこの科にかかったらいいんだろうかと悩んだ時に相談にのって貰える窓口として開業医の先生は小児科内科とか成人も診ている先生も多いので、大きくなった人も通いやすいだろうということで、小児がんの治療の経験のある先生のリストになっています。小児がんの経験者の会というのも全国にできていますのでリストも掲載させていただいています。これらの資料は随時アップデートしていきたいと思っています。コピーのような形になっているのはその意味があってですね、毎年というのではなく、年に何回も改訂されていくものだと思っています。ここからいなくなる先生もいれば加わる先生もいるのかなと予想しながらしています。ただこういう資料は今まではなかったので、一石を投じるという意味での今回は第一歩だということをご了解いただいて今回は完璧なものではないというのはお許しいただけたらと思います。

おわりに

大切なことはやはり信頼のおける先生の存在、そして御家族はもちろんですが、御家族以外の存在というのもとても大切だと思っています。そして正しい治療記録を持っていること、これはお子さん自身への気持ちですが、「自己肯定感」の獲得というのがとっても難しい。脳腫瘍の方は特に難しいと感じています。おそらく抗てんかん剤だとか、尿崩症だとか、成長ホルモン、性ホルモンという沢山の薬剤を抱えながら学校へ通ってらっしゃる方が多いと思います。そういうものがあるだけでも「自分はこの薬がないと生きていけない無意味な存在だ」と思ってしまうこともあるでしょうし、周りに迷惑をかける存在だというふうに思ってしまうこともあると思います。それだけでも、自分が何もする気がおこらないことにもつながってしまいますので、そうじゃないというメッセージも大人は当然伝えていかなくてはならないでしょうし、何よりもこれは自分自身で獲得することに意義があるのでそういう環境を整え、自分自身の気づきを促せるように支援していきたいと思っています。

ありがとうございました。

講演に関しての質疑応答

注)Nさん, Kさん, Sさん, Tさん, Uさんは、それぞれ質問者です。

N:カルテのコピーをしてくれる病院もあるのですが、取っておいたほうがいいでしょうか?

樋口:カルテにどこまで意味があるかというとむずかしいです。分厚いですし、書いてある内容を理解するのは大変ですし、全部コピーしたら数万円になると思います。記録としてとっていらっしゃる方はいらっしゃいます。否定はできないです。ご家族の判断と思います。でもどちらかというと先生にわかりやすく書いていただくことに意義があると思います。

K:こどもに自分の病気のことをどこまで説明したらいいのか悩んでいます。小学4年生なんですけれども、小学校上がる前に手術をしたんですけれども、上がる時に脳腫瘍という名前で、どういう病気かというのを簡単に説明したんですね。詳しく説明しようと思うと、やっぱり一番困っているのは再発とかそういう可能性を含めて、どこまで説明したらいいのかわからず、なかなかうまく説明できないところがあるんですね。その辺は年に応じてというお話もあったんでケースバイケースだと思うんですけれども、どういう風に考えたらいいか、何かアドバイスあったらお願い申し上げます。

樋口:ケースバイケースとしかいいようがないんですけれども、もし例えば本当に再発をしてしまった時に知らなかったと言われることは結構ご家族にとっても辛いことだと思います。再発したら言えなくなっちゃうというのもまた辛いところだと思います。再発した時にどう説明しようか、その再発した年齢が若ければまたそれはそれで、またこの間できてたできものがまたできちゃってねっていうような説明もできると思うんですけれども、ある程度の年齢に行って、18歳19歳ぐらいの年齢になって、例えば再発だった場合には本人が治療に参加してくれないと、本人がある程度のことを判断ができたりしてしまうので難しい、隠し切れないところが大きいと思います。脳腫瘍の方は比較的小さい時から「脳腫瘍」という言葉を使われますよね。腫瘍があるとお話もされますし、その後お薬を飲んだりもしないといけないですし、フィルムも自分で見たことがある子も多いですし、比較的話はしやすいのかなというのが私達の感触としてはあるんですけれども、わからないときはわからないので、どんなに親御さんが一生懸命考えてこれでわかるかなって思って「再発ってね。。もう一回でることがあるんだよ」なんて言い方をされても多分あまり実感としてはないと思うので、今うまく治療してなくなってはいるんだけれども、もう一回これができちゃうのは嫌だし、もう一回治療するのは嫌だからきちんと検査には行こうねと言って、再発のことを何気なくお話をされたりということが多いかもしれないですね。

T:守る会のお仕事なんですけれども、今回厚生労働省の意見書の中で、ソーシャルワーカーの育成だとかそういうことを皆さん言ってらっしゃるんですけれども、病院のソーシャルワーカーって小児がんにはすごく弱いんですね。親には話せるみたいですけれども、子ども相手に相談に乗るというのはない。がんの子どもを守る会の方でソーシャルワーカーの育成だとかはしないんでしょうか?是非やっていただきたいなと。

樋口:実はソーシャルワーカーの研修というのはがんの子どもを守る会の38年前からの事業のひとつとして行っています。にも関わらず眼に見えて実になっていないからこういうご意見をそこら中からいただいて反省しているんですけれども、研修会を開いて小児がんの医療に関しての知識を持っていただいたりということは続けてはいます。今も私が今事務局をしているんですがオンコロジーソーシャルワーク研究会というのですが、小児がんに限らずまずがん医療に係わるソーシャルワーカーの育成、研修というのをまず始めて、私も所属しているソーシャルワーカーの職能団体、があるんですけれども、いわゆる学会で毎年必ず研修とういか意識化というのはさせていただいてるんですが、小児はむずかしいんですね。まずは成人なんです。成人のがんの領域でさえも、ソーシャルワーカーがうまくかかわっていることは少ないので、成人も小児もまずは変わらないんだというところからお話をさせていただいて、その中でも小児は特にソーシャルワーカーが果たせる役割は大きいので、内容を聞けば本来はソーシャルワーカーがしたい業務ばかりなので、やりたい方はいらっしゃるんですが、これは実情を申し上げても言い訳にしかならないんですが、何百床ある病院の中でソーシャルワーカーが一人しかいない現状があります。その一人が全ての人に関わるのは難しいですし、転院相談だとか、高齢の方の次の居場所を探すとかというので必死で、特に小児病院なんかですと今虐待の対応で毎日がてんやわんやなっている方ばかりなんですね。なのでやりたいんだけれどもやれないというのが今の現状なので、是非こういうニーズがあるんだということを病院には伝えていただいて、御家族の方からのニーズと私どもの会からのお願いと両方とでお話がいくとソーシャルワーカーの意識も変わっていくのかなと思います。同時に厚生労働省の制度が少し変わってきまして、がん拠点病院というのが整備されてきています。がん拠点病院は相談員を設置しなければなりません。少しずつ、変わってきていると思います。

U:その一番の理由はなんですか?

樋口:一番はお金をとれないことですね。ソーシャルワーカーの利用はサービスですので一切点数は取れません。なので雇えば雇うほど病院は赤字になるので、小児にかかってほしいからソーシャルワーカーを雇ってくれというと小児科がそもそも赤字ですから、ジレンマですね。でも今ソーシャルワーカーになりたいという人が増えてきているので、それこそ病気を経験したお子さんの中でもソーシャルワーカーになりたいと言ってくれている方が増えているので、そういう方たちの働く場の提供という意味でも、意義があると思っています。ソーシャルワーカーという存在を皆さんが知っていただいて、こういう声をいただけるだけでも少し進歩でありがたいことだと思っているので、またご意見をいただいて陳情に繋げていきたいと思っています。

S:小学校の時に手術をして、放射線治療もしているんですね。今算数の勉強で2桁、3桁とだんだんと授業が高度になってきて、すご〜くゆっくりなんですね。あってはいるんですけれどもとにかく時間がかかるので心配していましたらやはり個人面談の時にちょっと時間がかかりすぎているというお話があって、先ほどもお話がありましたが、晩期障害というか知能的に理解はできるけれども遅いというのはひっかかるのですが。

樋口:世界的にも言われていることだと思います。私も国際学会などに参加させていただく機会をいただいて、色んな国の脳腫瘍のお子さんを診ているワーカーだったり、作業療法士だったり看護師さんだったり理学療法士の方とお話をさせていただく機会があって、日本だけなのかなと思ったらやっぱりどの国もみんな頭を抱えているのはそこで、数字にでないんですよね。理解できるんです。わかんないわけじゃないんです。ゆっくり時間をかけてその子のペースでやれば、遅いですけれども答えは出るんですよね。しかもあっているんです。あっていることはできるので評価してあげたいので、難しいところなんですね。IQの知能検査なんかも点数がみんな低くなっちゃうのはあれは時間制限があるんですね。空間認識だとか覚える記憶の問題だとかはスローテンポなせいでうまく点数がでていない、実は知能が高い子が多いという脳腫瘍の評価がだんだん言われてきているところです。脳腫瘍になったからといって、放射線をしたからと言って勉強ができないのかっていったら、お医者様になっている子もいますし、難しい研究をしているような子もいますし、勉強はできるんですよね。でもスローテンポというのは晩期障害だと思います。それを理解してもらうのが難しいんですよね。特に数学的な部分、漢字を覚えることでつまずいている方が多いようにも思います。ひらがな、カタカナまでは頑張れたけれど、漢字でつまづいているとか、ひらがなまではいけたんだけれども、カタカナでうまくいかないなんていうお話はよく伺います。あとは立体認識がうまくできないとか、パズルがうまくできないのは晩期障害として挙げられていますから、それは検査でわかることかもしれません。展開図だとかサイコロの面だとかというのを想像しにくいというのは機能としては、照射野だとか、手術をした部位だとか腫瘍のあった場所だとかが影響があるのかもしれません。それは、ある程度の年齢になったら検査ができるのでお母様がうちの子は元々これぐらいしかできないのか、病気のせいでできないのか悩んだ時は、検査を受けられるというのもひとつの手段です。ただ、さっき申し上げたように、IQにうまく現れないですし、数字に出ないところもあるので、専門家の先生にもわからないところもありますから、そこはうまくきちんと評価してあげなくてはいけないところだと思っています。

U:小児脳腫瘍だけでなく、小児がん経験者のいわゆる晩期障害に関する研究というのはされつつあると思うんですけれども、それは今後どんどん進められていく方向なんでしょうか?

樋口:色んな専門家の人の手が必要なので、まずはこういう晩期障害が考えられますということと、こういうお子さんが沢山いますということをお伝えしてからじゃないとなかなかスタートしないんですね。なので今それをお伝えしている段階です。伝え忘れてしまいましたが、一番今日皆さんが大変だとおもっていらしゃる内分泌の問題だと思うんですね。お子さんによっては量も違いますし、始める時期も違いますし、成長ホルモンのことは切っても切れない関係に多くの方はいらっしゃると思いますので、内分泌のことについても、実は小児内分泌の先生が、脳腫瘍の患者さんに対しての内分泌の専門家の先生が日本にどれぐらいいるかというと多分4,5人の人数なんですね。脳腫瘍の子はどれくらいいるかというと、多分1000とか1500ぐらいの人数がいますから、じゃあ一人の先生が300人診れるかといったら、全然うそになるので、殆どの方が専門家にかかられていないと思うんです。それは小児内分泌の専門家であるには違いないんだけれども脳腫瘍を経験している小児内分泌の専門家ではないという意味でもあります。そこで小児内分泌学会の中で、小児がん経験者の内分泌障害というセッションが設けられて、委員会が立ち上げられ、脳腫瘍のお子さんも含め、小児がんを経験した子ども達の内分泌をちょっと注意をしていかなくてはならないというところの促しと、加えて研究は進められていくと思います。どの分野においてもですが、今日明日すぐにぱっと変わるような内容ではないというのは申し訳ないのですが、徐々に理解には繋げ、研究を進めていただくようにお願いしていきたいと思っています。こういうことは、御家族が声を挙げてくださったことも大きな影響力があります。こういうことで困っているんですということを色々教えていただいて、一緒に私達も考えて色々策を練ったりしていることの経験を、まとめて訴えていきたいと思っています。また教えていただけると嬉しいです。


この資料は、小児脳腫瘍の会・第十四回講演会での講演記録を掲載しています。会のメンバが録音から起こした原稿を、樋口さんに校閲していただきました。